標準でバッテリーレス、しかも原付という閉ざされた価値がココにある【Ape50】

標準でバッテリーレスのバイク

長く乗り続けたバイクには愛着が湧くので手放したくなくなるというのはあるでしょう。

そうした反面、その乗り続けてきたバイクがセルスターターの付いていない仕様だったら、当たり前にボタン一押しで始動できるバイクに乗り換えたいと思う気持ちが芽生えるのも普通なことであります。

古い原付バイクApe(エイプ)を簡単に手放せない理由

軽い原付バイクApe50

ボアアップされたApe(エイプ)に乗り始めたのは、今から17年ほど前のことで当時は持っていた大型バイクのセカンドバイクという目的で手に入れた小さいサイズの乗り物でした。

それから月日は流れ、メインのバイクもセルなしモデルに買い替えたことをきっかけにセルボタンを欲しがる気持ちは幾度となく繰り返されることになりますが、その後もセルスターターが付いたバイクが自分のところへ納車されることはありませんでした。

バッテリーがないことの安心感

キックスタート

セルスターターが無いことによる不満や不安は他の多くのセル付きバイクに乗っている人が想像できる通りです。

しかし、いざバイクを買い替えるとなると乗り換えの対象となる車両には必ずバッテリーが搭載されることになります。

そこから想定されるのは、所有するバイク2台にはそれぞれバッテリーが搭載され、加えて4輪のバッテリーも数えると自分が管理しなければならないバッテリーは3個。

仮にバッテリーの寿命を3~4年と見積もると毎年どれかのバッテリーについて交換の心配をしなければならないことになります。

バッテリーの寿命を3年と考えるのは短すぎですが、冬に放置してしまいがちなバイクでは2台以上の管理は容易ではありません。

その点を考えればバッテリーを搭載していないバイクは管理がしやすいバイクだと言えるでしょう。

内燃機関を動力源とした乗り物でバッテリー上がりの心配がないというのは一つの安心できるメリットでありセカンドバイクとしては最適です。

この先発売されることがないバッテリーレス車

シンプルな構造

前期のキャブレター仕様のApeでは標準でバッテリーレスになっていますが、これは当時としても原付バイクでは珍しい仕様だったのではないでしょうか。

Apeにスタイルが似ている古いR&Pでも6V仕様のバッテリー搭載車で、それと世代を同じくして人気であったモンキーやゴリラでも6Vバッテリーを搭載していました。

特別取り上げられることのないApeのバッテリーレス仕様ですが、他のメーカーの車両を見てもオフ車以外で標準のバッテリーレス車、特に原付というのは極めて稀な存在でしょう。

そして排ガス規制後のFI化に伴いApe50・100でもバッテリーが搭載されるようになってからは、他のメーカーの車種も含め原付以外でもバッテリーを搭載していない車両は現行モデルとして見かけなくなりました。

これらの現状から想像するに、バッテリーなしの電力が不安定な状態では現在の排ガス規制には対応できず今後は標準でバッテリーレス車が発売されるこをはほぼ無いと予想されます。

規制が強化された2016年(2017年)当時すでにApeを所有していたため、それほど深刻には考えていませんでしたが、もう新車としては入手が難しく中古としても数が少なくなる一方であることを考えれば、そう簡単に買い替える判断にはなりません。

ただ走るだけで味わい深い小さな遺産Ape50

キックペダル

世の中には、消えて無くなってしまってからその存在価値に気づくものがあります。

その昔、乗用車が量産化されたばかりのころエンジンの始動に手で回す手動式のものが存在したのは知っていますが、近年では私自身も含め多くの世代の人がその存在を実際に見たことがありません。

Ape50(100)のような標準でバッテリーレスのバイクは、始動に必要な電荷そのものを人の脚力に依存するもので、始動後も独立した蓄電池の存在に頼らず完結させる仕組みになっています。

走り自体も規制に適合したスムーズな回転性能を誇るエンジンより挙動が不安定ですが、それは我々単気筒ファンには「激しさ」として評価される面もあります。

後から見たエイプ

自分の足で仕掛けた慣性により動き出したエンジンがそのまま動力源となり、それが生み出す小刻みなテンポはシリンダー内の燃焼とピストンの動きを乗り手に伝えてくれるといった一連の作用は規制前のApe50・100の持ち味であったと言え、小ネタのようにでも語り継がれるべき価値のある小さな遺産であることでしょう。

ここでは、電力をバッテリーに頼る手段が最初から断たれている点はかなり大きなポイントになります。

Apeの走りがもたらす一連の作用は、この世代に存在したバイクの乗り味をコンパクトに分かりやすく凝縮したものとも評価できます。

普段の移動手段としてでも、その走りは「小さくまとまった味わい」を体験させ続けてくれることでしょう。