国産バイクの新車には、ほぼ装備されることがなくなったキックスターターという始動方式。
セルフスターターによるエンジンの始動が当たり前になった現在で、ひっそりと途絶えつつあるのがキックアーム(またはキックペダル)と呼ばれるパーツではないでしょうか。
キックアームを備えた現行モデル
すべて調べ上げたわけではありませんが、国内向けに生産されるバイクの現行モデルでキックアームを備えているのはCT125ハンターカブかスーパーカブ110くらいではないでしょうか。
これ以外はあったとしても公道走行不可な車両である可能性が高いかと思います。
すでに気づいていた方もいらっしゃると思いますが、SRが新車として販売されず50ccの原付バイクも新しいモデルが出ないということは、この先、キックアームがこの世から徐々に姿を消していく方向にあることを意味しています。

C125にはキックスターターがない
ちなみに、スーパーカブC125にもキックアームはなくてセルフスタートだけの始動方式で、セル・キック併用なのはスーパーカブ110(50)。スーパーカブC125は、キックアームが排除された以外に全体的なフォルムや装備がモダンに進化しているのが特徴的です。
海外の有名どころな単気筒モデルをみてもロイヤルエンフィールドの最新モデルでは「空冷単気筒」のスタイルは保てているもののキックアームはなくなっています。これはGB350と似たような感じです。
また、近年ちらほら話題を目にする50年ぶりに復活したBSAゴールドスターは排気量が嬉しい650ccでも冷却方式は水冷になってしまって、やはりキックアームは装備されていません。
全体的なスタイルもなんだか「ずんぐりむっくり」で重そうです。
SR400の生産終了が大きく影響か
セルフスターターを装備しないキックスタートオンリーというニッチな視点で語るなら、そうしたジャンルはヤマハSR400の生産終了をもって現行モデルがなくなったと考えていいようです。
キックオンリーというスタート方式のバイクには原付(カブ)があるよねと思っていたら、スーパーカブ50もセルが併用して装備されるようになってからだいぶ年数がたち今では50ccモデルそのものが新車としてはなくなりつつある状況。
その点を振り返ると、キックスタートのバイクにはSRがあると言われていた当時に、SRがキックオンリースタートの最後の砦だったようです。
どうなんでしょう。こんな風に認識しているバイク乗りは私だけではないと思います。SR400が復活しただとか、今度のファイナルエディションは本当の最後になりそうだとかSRだけは大々的に報道されるのに対し、他のキックアームを装備した小排気量の車種はいつ消えたのかすら知らないし分からないという方が大勢ではと思います。
そんな空冷単気筒の絶対王者だったSRが新車として入手が難しくなる一方、他に目を向けてみたらキックアームが装備されているバイクにはスーパーカブ110やハンターカブしかなかったというのが現状でしょう。
バイクの象徴的イメージでもあったキックアーム
古くからの名車として知られるカワサキの750RSやホンダのCB70Fourなどは、大型バイクでしかも4気筒でありながらキックアームが装備されていました。もちろんヨンフォアにもキックアームはあり。
その後にナナハンキラーと言われたRZ350(250)はキックスタートで、それらから進化したTZR250やホンダが出したNSR250、スズキのRG250(400)γなどの2スト車両は選ぼうとするとほぼキックスタートだった記憶があります。
2000年代に入ってからブームとなったTW200はセル・キック併用のスタート方式で扱いやすい200ccというのは、ライトな趣向のバイク乗りには理想的なスタイルのバイクであったことでしょう。
そして、SR400(500)以外のバイク(中型クラス)でキックアームが実用的に装備されたのは、このヤマハTW200(225)や同クラスのバイクが最後だったかのように思います。
というのも、TW200(225)にはキックアームがありましたがホンダが対抗して出したFTRはセルのみのスタート方式。わかりやすいのはスズキのグラストラッカーで、このバイクはキックの有無が型番によって区別されていて最終的にFI化されたモデルではセルのみに統一されたという経過があるようです。
キックアームを持つセル・キック併用のバイクが少なくなってきている理由にはコストの削減があるとききますが、それ以外にも最近のインジェクション化されたバイクではバッテリーが上がってしまうとキックでの始動性が悪くなるなどの影響もあってのことかと思います。
これは燃料の噴射に電子制御を使うのですから、キックアームを蹴り下ろすタイミングで始動に充分な電圧を確保できている必要があることを考えれば当然に想像がつきます。
このように、バイクらしさを持つバイクにはもともと付いていたキックアームは始動性の良い2ストエンジンや、単気筒エンジンに限定して採用されるようになったあと、コストカットなど様々な事情により装備されなくなってしまい現行として残るのはスーパーカブやハンターカブだけとなっています。
今振り返って思うのはキックスタートはエンジンを始動させるために必要な儀式というより、バイクという乗り物だからできる独特のスマートかつ激しさを伴うアクション的な操作だったのではということです。
車と違い存在感剥き出しのエンジンを轟かせるために必要なアクションが、素早さと的確なタイミングが要求されるキック動作であって、そこに力強さや機械を操れる逞しさの象徴を垣間見れたり、そうしたものへの憧れがあったかもしれません。
こう言葉に表現すると、「そうだよね」と納得してくれる人も少しはいらっしゃるのではと期待したいです。
そして、数少なくなりつつあるキックスタート始動のマシン(CB400SS)のユーザーとしてマシンの良好な始動性の維持に努めていきたいとともに、今さらではありますがキックアームを蹴り下ろすことの醍醐味やスマートに始動できた時の爽快感のようなものを伝え続けていけたらと考えています。
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